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・龍馬の銅像と桂浜の風景（夜）
N「高知、桂浜--」

・旅館の大部屋（和室）
アトムのクラスメートたち(アトムはいない)、枕投げに興じている。
シブガキ一人が、輪から外れて隅っこでうずくまっている。
クラスメートA「どうした、シブガキ。一緒にやろうぜ」
シブガキ「あ、ああ……」
と、ヒゲオヤジが障子を開けて
ヒゲオヤジ「（顔を出して）うるさい、早く寝ろ!」
慌てて布団に潜り込む一同。
布団の中のシブガキ、やはりうかない顔。

・夜の桂浜上空を飛ぶアトム
アトム「アア、せっかくの修学旅行なのに、科学省のお仕事ですっかり遅くなっちゃった」
アトムの視界に、龍馬の銅像と、その近くに立つ旅館が見える。
アトム「あっ、みんなの泊まっている旅館はあそこだな……あれ?」
旅館の窓に布団を干しているシブガキの姿。

・旅館の窓
布団を干しているシブガキ。
アトムの声「シブガキ君、どうしたの……あっ!」
空から飛んで来るアトム。シブガキ、慌てて布団を隠そうとするが間に合わない。布団は見事におねしょで濡れている。
がっくりとうなだれるシブガキ。
シブガキ「俺、おねしょがまだ直らないんだ……」
アトム「（急に何かを思いついて）そうだ、いいことがある」
アトム、布団に向かって足からジェットを出す。
アトム「こうすればすぐに乾くよ」
みるみる乾く布団――が、火力が強すぎて燃え上がってしまう。
アトム「あっ!」
慌てて火を消そうとするアトム。

・小部屋
ヒゲオヤジとお茶の水博士が酒を飲んでいる。
ヒゲオヤジ「いやァ、お茶の水博士、子供たちの修学旅行にまでつき合っていただいて、何だか悪いですなァ」
お茶の水博士「いやなに、高知で会議があるんじゃ。ついでじゃよ」
と、火災報知器の音!

・旅館の廊下
水をかけられてびしょびしょの布団。焦げ跡は残っているが、火は消し止められている。
アトムとシブガキが正座してうなだれている。
怒鳴りつけているヒゲオヤジ。
ヒゲオヤジ「幸いどこにも燃え移らなかったからいいようなものの……」
シブガキ、うつむいて今にも泣き出しそう。
お茶の水博士「まあまあ、アトムも悪気があったわけじゃなし」
ヒゲオヤジ「しかしですな、博士……」
お茶の水博士、シブガキの前にしゃがみこむと、
お茶の水博士「シブガキ君、君は坂本龍馬を知ってるかね?」
シブガキ「（顔を上げて）え?」
お茶の水博士「坂本龍馬は、12才になっても、まだおねしょが直らなかったと伝えられておる」
シブガキ、興味を持った顔になる。

・龍馬記念館外観（翌朝）

・龍馬記念館内部
写真のコラージュに、アトムたち一行が被さる。
お茶の水博士「坂本龍馬という人は、幕末の日本で活躍した人じゃ。この人がいなかったら、明治維新は全く違う形になっとったじゃろうと言われておる」
シブガキ「どんな人だったんですか?」
お茶の水博士「そうじゃな……１滴の血も流さずに日本を革命しようとした人じゃ」
面食らう一同。
お茶の水博士「江戸時代の終わり頃、幕末と呼ばれちょる頃じゃ。『外国の植民地にされないためにはどうしたらいいか』ということを巡って日本は、『幕府を立て直して日本を支えていこう』と言う人々と、『幕府を倒し、天皇を中心とした新しい国をつくろう』という人たちにわかれて殺しあっていたんじゃ」
アトム「どうしてですか？みんな目的が同じなら話し合って解決すればいいじゃないですか」
お茶の水博士「そう。われわれにとっては当たり前の考えじゃな。じゃが、誰もが目の前の敵を殺すことしか考えていなかった時代に、龍馬ただ一人が、その当たり前のことを考えていたんじゃ。それが形になったのが、大政奉還（脚注）じゃよ」
シブガキ「龍馬はどうしてそんな人になれたんですか？」
お茶の水博士「フム……少し長い話になるが構わんかな?」

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