ふるちん三銃士
※プロット形式です
大連の花街をふるちんで疾走する三人の男たちの姿があった。
甘粕正彦。「大杉事件」の罪を背負い、後に「夜の関東軍」と呼ばれた男。
愛新覚羅溥儀。清朝最後の皇帝として、間もなく満州国皇帝になる男。
石原莞爾。満蒙領有論を唱えつつも、満州国に「五族協和」の理想郷を建設せんとした男。
この三人は--何のこたあない、今晩の払いを誰が持つかを賭けて争っていたのだった。
時は満州建国前夜。彼らはまだ、ただの男たちでいられた……。
レースは甘粕の圧勝。
甘粕「ムショ帰りを甘く見てもらっては困ります」
溥儀二位。
溥儀「スポーツはゼントルメンのたしなみだよ」
石原ビリ。
石原「肉体労働は参謀の仕事ではない!」
仲良く口げんかしながら登楼する三人。しかし酔うと「朕は皇帝だぞ!」を連発する溥儀は一人もてない。ぶ然として飲んでいるところに近づいてくる梅蘭。
梅蘭「もっと楽しいところに行きましょうよ……二人っきりで、ね」
ふらふらとついていく溥儀。鋭い視線を送る甘粕。
たどり着いた先は阿片窟。びびくりまくる溥儀に無理矢理阿片を吸わせ、
梅蘭「阿片をやりながらだと、三倍感じるだろう?」
と溥儀を強姦する梅蘭。
梅蘭「近々関東軍の大規模な阿片輸送がある。そいつをまるごといただいちまおうってもくろんでるのさ、あたし達は。ただ、問題が一つある。そいつをさばくには、結社を通さなくちゃならない。ところが結社を通すと、マージンを随分と巻き上げられちまう……そこで、皇帝陛下に力を貸して欲しいってわけさ」
ふーっとか煙を吹きかけながら
梅蘭「あんたの鶴の一声が欲しいのさ、あたしと一緒に結社の首領に会っておくれよ」
溥儀「阿片は人を滅ぼすものだぞ、この国を滅ぼすつもりか!」
高笑いして
梅蘭「あんただって自分の国を滅ぼした皇帝じゃないか……その気になったらまたここへ来とくれ、天国へ連れてってあげるよ」
よろよろと歩く溥儀。目の前に現れる甘粕。
甘粕「阿片は国を滅ぼすもとです」
溥儀「そんなことは朕が誰よりもよくわかっている!あの美しく聡明だった鴻秋(えんよう)が……阿片など、叩き潰してしまいたい!」
甘粕「潰しましょうか」
溥儀「何だと?」
甘粕「そいつらを、叩き潰しましょうか?」
石原「話は全て聞いたぞ、私も阿片は大嫌いだ。是非一口乗せてくれい」
突然現れる石原莞爾。最強チームが誕生した。
阿片窟に現れる甘粕、溥儀、石原。
甘粕「私も一口乗せてください。大杉事件をご存じでしょう。日本は私を利用するだけ利用して、無造作に捨てました。日本に一泡吹かせてやりましょう」
石原、計画書を見て、
石原「こんな杜撰な計画でうまく行くとでもおもっとるのか、たるんどるぞ貴様ら!」と自分で書き直し始める。
梅蘭「ま、待っとくれ!あたしらはあんたらを信用したわけじゃ……」
甘粕「もうそうするしかないのですよ、それとも我々を返して、関東軍に通報されますか?」
梅蘭「あんたらをここから二度と出さないってのはどうだい?」
甘粕「我々がその時の為の手を打っていないとでも?」
梅蘭「……信用した訳じゃないよ」
甘粕「お互い様でしょう」
結社の首領と会っている梅蘭。
首領「手数料をまけろだと?いい度胸だな」
溥儀登場。
梅蘭「皇帝陛下が、どうしても資金が必要なのよ」
軍の司令部に殴り込む石原。
石原「貴様ら、満州に阿片を持ち込もうとしとるそうだな。ゆるさん、ただちに焼き捨てろ!」
兵士「しかし……」
石原「代わりに手柄を立てさせてやる。匪賊討伐の大手柄をな」
甘粕と寝ている梅蘭。
甘粕「あなたはどうして女だてらにこんなことを?」
梅蘭「説教ならよしとくれ……生き残るためさね。これでも半分日本人の血が入っていてね。日本人からは中国人とさげすまれ、中国人からは仲間はずれにされる……あたしを両手広げて迎え入れてくれるところは、裏社会くらいさね……そういやあんたも、日本を追われた日本人だっけ?」
甘粕「時間です、行きましょう」
関東軍の軍用列車に襲撃をかける梅蘭率いる匪賊の一団。襲撃は成功かと思われた時、積み荷の代わりに出てきた憲兵隊の一個中隊。
梅蘭「畜生、あんたら図ったね!」
石原「我が関東軍の軍需物資を強奪しようなぞと考える輩はこうなるのだ。さあ、一人残らず生け捕りにせよ!」
ところが憲兵隊による虐殺が始まる。
石原「生け捕りだぞ、命令に従え!」
甘粕「こうするのが一番よいのです。あなたのやり方は理想主義に過ぎます。それでは結局全てを失うことになる」
石原「……そうか、貴様は憲兵隊の出身だったな。憲兵隊を使ったのが失敗か……」
呆然とする梅蘭の前に姿を現す結社の首領。
梅蘭「大人!」
甘粕「皇帝陛下は阿片がお嫌いです」
梅蘭「はっ!偉そうな面するんじゃないよ!あんたらだって結局、同じ穴のむじなさ。あたしが目をつけた阿片だって、元々関東軍が満州に撒こうとしていた奴じゃないか!」
梅蘭を射殺する甘粕。首領、溥儀に向かって
首領「陛下、満州国の皇帝にお就きあそばれるようですな」
溥儀「……」
首領「我々は阿片は扱うが、国は売りません。力をお貸しするのは、これで最後とお考えいただきたい」
去る首領。残される匪賊たちの死体をいたぶる憲兵たち。
甘粕「やめなさい!……丁重に葬ってさしあげてください」
花街を無言で歩く三人。
号外売り「関東軍がついに満州全土を制圧したぞ!」
叫びながら駆け抜けていく号外売り。石原の部下が走って来て、
兵士「こんなところにいらしたのでありますか、すぐ参謀本部にお戻りください!」
石原「関東軍参謀、石原莞爾、ただいまより軍務に復帰いたします!」
敬礼して去る石原。溥儀にも迎えの車が。
甘粕「あの車に足を踏み入れた瞬間から、あなたは満州国皇帝です」
溥儀「私は本当は、皇帝になぞなりたくなかったのだよ。ここで遊び人のプーさんとして愉快に暮らして、のたれ死にでもしたかった……だが私は、これら就くことになる満州国皇帝という地位が嫌いではない。私が行ったこと、おこなわなかったことが世界を動かし、歴史に残るのだからな」
去る溥儀。
一人歩く甘粕の目に、映画館がとまる。入っていく甘粕。三人のその後がナレーションされる。（完）